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文章諸々
2025/03
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↓の続き


僕は考える、どうしたらスズキを渋谷さんに連れていけるかと。
「今日、元木部活じゃん」
「なんで僕が元木などと帰らなくてはならないんだ」
「じゃあ、りょう君?」
「姫野は先輩と約束があるそうな」
「じゃあいいじゃあないか、僕と連れだってパン屋さんくらいさあ」
「いやだね、家と逆方向だ、し、お前どうせ僕にべーグルかシナモンロール買わせて半分こしたいんだろう」
「何故わかった」
「わからないほうがどうかしている」
「わかっているなら尚更、たのむようスズキ、このビスケットに免じて」
「嫌だね、だいたいおまえさっきからずうっと持ってるだろそのビスケット、溶けてるし」
「瀬川さんがくれたんだよ」
「よし、了解した、渋谷さんだな」
スズキはじつに素早く、僕の左手人差し指と親指の間からビスケットをぬすんだ。溶けたチョコレートがぬるりと僕の指先を這った。
「やたらと甘い」
「そりゃあ、チョコべったりだからね」
「そして溶けてる、」
「瀬川さんの愛さ」
「よきかな」
「よきかな」
スズキはようやっと英語の参考書を閉じた。僕は指先のチョコレートを舐めとるべきか否か迷っていた。スズキが顔をしかめた。
「指がきたない」
「舐めるか拭くべきか迷っているのだよ」
「お前っていつもそうだ」
スズキはかるーく失笑して、僕の左手首をひっつかんだ。なんだよ、も、なんでしょう、も喉元未満な僕など知らぬことといういつもの顔のまま、スズキは僕の指を、舐めた。
厳密にいうならば、僕の指先のチョコレートを舐めた。結構ねっとり舐めた。鳥肌。
「なにを、する」
「瀬川さんの愛だからな」
「お前、なんかそれ、かるくストーカーちっく」
「冗談の通じないやつ」
お前冗談なんて言わないじゃあないか、僕はなんとも跳ね上がったまま変動せぬ心拍数を気にかけることだけでひどく精一杯であった。
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僕は思案していた。左手のそれは、前の前の前の席の可愛い女の子がくれたチョコレートがべたつくビスケットで、今も僕の指先の温度でもって着実に融解し続けていた。爪と肉の間をチョコレートに侵されつつ、僕は思案していた。
「つまり。お前は、渋谷さんのシナモンロールとクランベリーべーグルのどっちを買おうか、悩んでいると、そういうことだ、な」
「さっきからそういってるじゃあないか」
「知ってるか、お前の言語中枢の電気回路は些か人とあいちがった暗号キーを適用しているらしい」
「スズキは褒めか方が回りくどい」
「褒めてないから安心しろ」
スズキはそういうと英語の参考書に興味をもどした。スズキは世間一般でいうところ僕の友人であった。決して魚でなはい。スズキはよく僕のことを知り合い以上友人以下と評する。
ちなみに渋谷さんとは駅前のパン屋さんのことである。
「クロワッサンもすてがたい、フレンチトーストも食べたい、カレーパンも絶妙、」
「お前みたいなのを人は優柔不断という。しかも、まだ授業中だ」
「自習は授業でない。それに、善は急げってやつだ」
「それが善なら全てが善である気がしてくるがね」
「スズキはなにがたべたい?」
「ラーメン、松竹の味噌ラーメン」
「ラーメン野郎」
「よく言われる」
教室は酷くざわついて、かしかましかった。スズキの右手は休むことなくアルファベットをルーズリーフに連ねていた。僕はまた思案を再開することにした。
「予算は150円でぎりぎり、だとするとカレーパンは無理、やはりべーグル、」
「たのむから口を閉じて考えろ、腹が空く」
「じゃあこの時間終わったら買いに行こうよ、パン」
「だから僕はラーメンが、」
「元木とはいっつもマックいくじゃあないか」
「なぜならあいつはマクドナルド教徒であるからな」
「僕はパン教徒だね」
「僕はラーメン教徒」
「埒があかない」
「埒なんてそもそもありはしない」
スズキはそっぽを向いた。
「さあもう一軒」
彼女は実に身軽であった、あたりまえである、彼女はほとんど手ぶらも同然であったのだから。対を成して、僕の両腕には色とりどりの夏物衣類(女もの)が詰まった色とりどりのショップ袋、軽やかにヒールをうちならす彼女の半歩後ろをほうほうの体でついて歩いていた。
荷物持ち、これ以上の表現を僕はしらない。
「すこし、やすまない?」
僕の声はあきらかにかすれてよれてふらふらであったが、彼女は心配顔ひとつみせないどころか顔をしかめた。
「君さあ、さっきからそればっかじゃん、男のくせにだらしない」
君のほうは女のくせに勇ましい、心中ひそかに呟いて僕は本日何度目かのおもーい溜息をついた。
「半分とは言わない、少しは荷物持ってよ、自分のだろう」
「女の子に荷物持たせて平気なわけ?甲斐性なしとはこのことね」
彼女は高らかに鼻で笑った。僕にはかえすべき言葉がなかった。
世の女の子は男に荷物を持たせても平気らしい、ジェンダーフリーってなんだろうまったく。
「わかったよ、わかった。パフェでもケーキでも宇治金時でも奢ってあげるから、ちょっとすわろう」
「しかたないなあ、じゃあ、公園でクレープ」
「りょーかい、マイプリンセス」
「くるしゅうない、マイプリンス」
彼女はにこりわらって僕はへたった苦笑をうかべた。
ショップ袋が少し軽くなったのは実に単純な心理。彼女が歩きだして僕はそれに続いた。
「暴力はうつくしいものだろうか」
答えはノーだ、圧倒的にノーだ。
「なぜならされた方は鼻血がでる、涎もでる、涙もでる、しかも喚く。する方は顔真っ赤で、般若のごとく。しかもやっぱり、わめきちらす」
神崎は肩をすくめた。すずきくんはつまらない、と顔に書いていた。僕は仕方ないので苦笑ぽく口の端を吊り上げてみた。
「愛と憎しみ、」
「憎しみとエゴだろう、神崎は小説の読みすぎなんだよ」
「そおかなあ、だとしたら、愛っていう名前のエゴだ、とおもうけれど」
そうおもわないとやっていけないよ、神崎は紫の目元を引き攣らせた。笑おうとして、失敗した、ような顔。
「もしくはエゴって名前の愛」
「そう、憎しみで愛」
「寒気がするね」
「なんとでも」
なんとでも、彼はひどく孤高に笑顔した。
「私を殺せばあなたはしあわせになれるわ」
彼女の声は台詞の内容とはあべこべに、酷く確信にみちみちたものであった。わたしはたじろいた。
彼女はちいさく笑った、ように、みえた。もしかしたら口の端が痙攣しただけかもしれない、瞬きのタイミングの関係かもしれない。わたしがちっとも笑えていなかったことだけはやたらと明確に真であった。
それきり彼女はなにも喋らなかった、インテリアのごとく無言であった。つまりこの部屋はとてもとても静かであった。
わたしはあまりの気まずさに1ダースほど消えたくなった。
「どうしてそうおもうの」
苦し紛れのわたしの声はあほみたいに振幅していた。あまりによれよれで、恥ずかしくなる程度によれよれであった。彼女はぴくりとも表情を動かさなかった。
「すくなくとも、」
わたしは目の前の彼女は実はマネキンなんじゃあないかと心配になりはじめた。
彼女はうごかない。
「わたしはそうはおもわない」
「あなたは間違えている」
つまり即答である、即否定である。わたしは再度たじろいた。大いにたじろいた。
「このままだとあなたはずうっとふしあわせだわ」
「わ、わたしは」
「あなたはしあわせじゃあない」
それは事実だ。
「でも、」
「私を殺しなさい」
言い返す言語のすくなさにわたしは愕然とした。口が渇く。
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