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彼女の歩みは平時のそれと比べるべくもあらず覚束ないものであった。歩を進めるべく前方に浮いた右脚の膝は不自然に曲がっており、着地時には重心が右側へ大きくぶれた。痛むらしく彼女は先程からずうっとしかめつらで、無言を戒律みたいに貫いていた。8センチメートルなんてきちがいじみたヒールを履くからである。僕は僕より5センチメートルも長身になってしまった脚の長い彼女と彼女の自業自得なくるしみと僕のささいな矜持を思ってちいさく苦笑した。すると揺れた空気に敏感に彼女は眉間の皺そのままに僕を見下ろし、不機嫌そうに口の端を噛んだ。
「べつに、きみを笑ったわけじゃあないよ」
「嘘をつくなよ」
「嘘じゃあないったら八割方」
「二割は本当なんじゃあない、だいたい、沢山歩くんなら事前に行ってよね、不誠実だわ。自分はちゃっかりスニーカーなんて履いてきて」
「僕もこんなに歩くなんて思っていなかったんだよ。それに僕はいつもスニーカーだよ、」
もう少しで駅につくよ我慢しなよ、しかし僕のこの台詞は概ね3回目であったし、2回目に口にしたのはだいたい10分前であったので彼女はあからさまに聞き流した。
うまく関節が使えないものだから緩衝機能がはたらかず、彼女の足音はいくぶん容赦なく、老朽化の著しいアスファルトを削った。
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