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文章諸々
2025/02
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「何読んでるの」
「たいしたものじゃあないよ」
私はハードカバーの背表紙を椣原に向けた。椣原は顔をしかめた。
「それ、知ってる、2005、6年だかの過去問にでてたやつだろ」
「…驚いた。椣原って真面目に黒本に取り組んでたんだ、へえ、真面目にやってあの点数なんだ」
「いっていなかったっけ。私は小説と古典に関してはいつも偏執的なまでに真面目なんだ。残りはいつも足して、二百分の十といったところだが」
つまり前者はいつも満点だということか。時間配分が発狂している、こいつ馬鹿だ。私が心底哀れみ、といった表情をうかべてみせたところ、そういうあんただってがり勉のくせに数学いっつもピー(自主規制)点じゃない、とりあえず私は椣原をなぐった。
ちなみに黒本とは河合塾出版のセンター試験過去問集の俗称だ。
椣原は気にしたふうもなく、しかめた顔そのままに吐き捨てた。
「その話やたらと頭にのこってる、あんたが好きそーな自意識過剰な話」
椣原はこういう、思春期的自我な話が大嫌いであった。回りくどい比喩もきらいだし、なによりまず女流文学というものを憎んでいた。そして彼女の先入観は大いに誤解であった。
「ふざけるな、私だってこんな話、好きじゃない。ただ目をひいただけだ」
「うそつけよ、好きじゃなかったとしてもその好きじゃないは同族嫌悪的ななにかだろ」
「まあ、それは、否めないかもね」
同調したのはたしかだ。
だれにでも訪れるような少女妄想であったが、それはひどく、尊かった。昔の私から失われ、今の私にも、もちろん椣原にも、ないものだ。
「所謂文学少女というやつが私は嫌いだ。卑屈なくせにどこか他人を見下して、自分にはなにかあるっていう幻想を本気で信じてる。自分は他人と決定的に隔てられていると思い込んでいる。煎じ詰めれば対人恐怖の正当化のくせに。読書は人を賢くするだなんて、妄想さ。紙とインクの束のくせに生意気な、あれはひたすら人を愚かにする」
「…本人の眼前でわざわざ悪口いわなくてもいいだろう」
しってるよそんなこと。私は不機嫌に呟き、椣原はわらった。
「主人公は結局ふつうの女の子になるみたいだよ」
「へえ、健全、そして賢明、つまりおもしろくない。小説のくせに」
興味なさそう。こいつは小説をなんだたとおもっているのだろうか。
私はどうにもうんざりとして本を閉じた。椣原は先日見たとかいう大昔の洋画の話をしはじめた。
そろそろ電車が来る頃だった。


(僕はかぐや姫)
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心拍数が、異常だ。
僕は冷静ぶって分析して、ついでにもう何度目か知れぬ寝返りをうった。目がひどく冴えていた。脈拍がどくどくと耳にひびき、先程からじわりと神経痛の気配が膝まわりにただよっていた。眠れない、予感というよりか確信で、むしろ進行する事実だ。
普段ならここで起きて本を読むなりなんなりするのだろう、僕はさえた頭で想像してみた。それはどんなにすてきなことか、でも僕はそれをしない。できない。この夜のもつ意味は、普段のそれとは画然と隔たっているからだ。しかし、眠れぬ。いや、だからこそ、眠れぬ。
無情にも傾きつづける長い針および短い針に僕は重く絶望した。心音がはやまる、眠れない、たちのわるい悪循環だ。むしろこのまま睡眠をショートカットして朝になってしまえばいい。この状況はまるで、真綿で喉を締め付けられているようだ(経験したことはないけれどね)。
数人の友人の顔をおもいうかべた。彼女らはもう眠っただろうか。僕はいつ眠ることができるのだろうか。
夜はふけてゆく。


(前夜)
「死んだように生きたくはないとはよくいったものだけれど、生きたように生きるっていうのもまた気持ち悪いものだよね」
「…お前っていっつもそうだ、相手に判断を委ねすぎ。もっとわかりやすくいえよ、意味わからない」
「じゅうぶんわかりやすくいったつもりなんだけれど、つまり、まあ、君の嫌いな、観念的なはなしになるけれど、」
「じゃあ遠慮する。というか、お前、観念的なはなししかしないよな、地に足がついていないっていうか。だいたい、理想理想いったって結局現実の上澄み以上には至れないとおもうんだけれど」
「そっちのほうが意味わからないよ」
「僕らは現実でしか生きられない、お前の妄想も、その範疇を越えられない」
「妄想は偉大だ、観念は無限で、形而上の世界にはなにもかもがあってなにもない、べつに、意識くらいどこかべつのところにいかせてくれたってばちはあたらないよ」
「なんかそういう考えって徹底的に駄目人間だよな。透谷とかすきだろお前」

「好きじゃないよあんな引きこもり、違うんだってば、あー、言葉が足りない、なんかこう、つまり、君とぼくはたぶん解りあえない」
「いや、そこは厳密に言おう、解りあいたく、ない、だ」
「いやなやつ」
「おまえもな」


(噛み合わない中二病トーク)
ぬるくなった出涸らしのセイロンは僕の舌になんの感慨もうむことはなく僅かな渋味とともに薄れてきえた。
チョコレイト、ミルクの板チョコレイトがたべたい、とおもった。眠れない女の話が僕を触発したのだ。飽和したような胃の腑とは裏腹に僕の脳みそはやけるように痛んで、せき立てる。
僕は苦し紛れにマルボーロを一本、口に含んで灯をつけた。あの小説の結論はなんだったのだろう、「アンナ・カレーニナ」は何かのメタだろうか。口のなかが苦い。ティーカップは冷え冷えとして、僕の指は深爪を病んでいた。チョコレイト、
ねむろう、どうせかんがえたってなにもかわりはしない。
恋だとか愛だとかすきとかきらいとか、結婚しようきみがいとおしいだとか、
「ばっかじゃねーの、しってる?恋愛感情ってセックスの正当化なんだよ、つまるところ。種の繁栄のためにしくまれたあれこれなんだよ、それをおまえ虚飾・美化して本元たる醜悪たる性行為をみないふりする、純愛?おまえの眼前にいる小さいみどりいろの物体は妖精さんだ。毎朝君の作った味噌汁が飲みたい、欺瞞だね、毎晩君と激しくかつ生々しく前衛的にまぐわりたいと訂正しろ」
「前衛的である必要は中性子の重量ほどもないとおもうわけだがね」
まあおちつけよ、とスズキくんは相変わらずのやる気低迷気味な当たり障りない台詞をつづけた。その顔にはめんどくさい、と、はやくかえりたい、以外の感情は見当たらなかった。
だがぼくは基本的に空気をよまない。
「共感を誘うとか寧ろ陳腐なだけなラブソング、とりあえず三行に一回ペースで愛の字が散在する三文恋愛小説、とりあえず彼氏か彼女が死に別れしちゃう映画、これらの、抽象化、いいとこだけとりあげました感に大衆はなんの疑問も感じることなく順応、肯定、追従する。かつ、投影してさもじぶんがその砂糖菓子みたいな幻想のなかにいるかのように錯覚する。スズキくんは犬あるいは猫、馬の性行為をみたことがあるかい、あの醜さ、結局ぼくら人間の本能はあれと相似形なわけだよ、くそだよ、ほんとうへどがでる」
「わからんでもないが、君はあまりに潔癖すぎるんじゃないの。しかも今日というこの日にそれを言うとひがみにしか聞こえないかなしさ」
「そう、それが問題なんだ、とくに後半」
そしてふたりして黙した。
スズキくんはフライドポテトをつまんだ。ぼくはコーラをひとくち、くちにふくんだ。
例の陳腐なあまたるいレンアイソングと人の発する騒音を背景音に、ぼくとスズキくんは暫し見つめ合い同時に目を反らした。
「何が悲しくておまえとクリスマスをマクドナルドですごさなければならぬのか、おお神よ」
スズキくんはわざとらしく歎いた、棒読みで。
「スズキくんは独り身だしぼくの彼女は家族と団欒だし、相沢と元木は部活だし姫野はバイトだし」
「柴宮は多忙で二宮は二宮だからしかたない、涌井くんはこちらから願い下げ、まあなんていうか出がらしみそっかす、彼女と過ごせないからって全国の愛し合う男女に呪詛を吐く男、というか男とクリスマス、おお神よ」
「うるさい無神論者のくせにでかい口をきくな。だいたいキリシタンでもないくせにクリスマスにうかれるってどういうお国柄なわけ、外国人様主義なわけ、舌の根乾かぬうちに初詣、なんていうか調子よすぎ、寿司でも食ってろ」
「まあ同意するけど結局自己故矛盾だし、負け犬の遠吠え的だし、なによりマックにいる時点で説得力皆無だし」
「だってぼくマックだいすきだし、ぶっちゃけモスバーガーとか邪道すぎるし、つーか戯れ事だし嘘だし。大塚愛とか普通に聞けちゃうし恋空とか彼女に付き合って見ちゃったし、くそくだらなかったけど」
「おまえのそういうところが嫌いだよ、はげしくなまなましく、前衛的に」
「だいたいクリスマスっていったらとりあえず愛する恋人とセックスだろ、常識だろ、男女に与えられた聖なる口上だろ、あーもーあのおんなまじで空気よめ」
「おまえがまず空気をよめ」
「もうこのさいスズキくんでいいや、ホテルにいこう」
「あたしはそんなにやすくなくてよ」
「つれないところもみりょくてきさ」
スズキくんはメロンソーダを啜った、ぼくはチーズバーガーをかじった。
「ぼくの部屋でストリートファイターやらない」
「ああ、いいね、おまえエドモンド本田な」
「本田なめんなよ、ふるぼっこだし」
「おまえのそういうところが愛しいよ」
「前衛的にね」
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