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「何読んでるの」
「たいしたものじゃあないよ」
私はハードカバーの背表紙を椣原に向けた。椣原は顔をしかめた。
「それ、知ってる、2005、6年だかの過去問にでてたやつだろ」
「…驚いた。椣原って真面目に黒本に取り組んでたんだ、へえ、真面目にやってあの点数なんだ」
「いっていなかったっけ。私は小説と古典に関してはいつも偏執的なまでに真面目なんだ。残りはいつも足して、二百分の十といったところだが」
つまり前者はいつも満点だということか。時間配分が発狂している、こいつ馬鹿だ。私が心底哀れみ、といった表情をうかべてみせたところ、そういうあんただってがり勉のくせに数学いっつもピー(自主規制)点じゃない、とりあえず私は椣原をなぐった。
ちなみに黒本とは河合塾出版のセンター試験過去問集の俗称だ。
椣原は気にしたふうもなく、しかめた顔そのままに吐き捨てた。
「その話やたらと頭にのこってる、あんたが好きそーな自意識過剰な話」
椣原はこういう、思春期的自我な話が大嫌いであった。回りくどい比喩もきらいだし、なによりまず女流文学というものを憎んでいた。そして彼女の先入観は大いに誤解であった。
「ふざけるな、私だってこんな話、好きじゃない。ただ目をひいただけだ」
「うそつけよ、好きじゃなかったとしてもその好きじゃないは同族嫌悪的ななにかだろ」
「まあ、それは、否めないかもね」
同調したのはたしかだ。
だれにでも訪れるような少女妄想であったが、それはひどく、尊かった。昔の私から失われ、今の私にも、もちろん椣原にも、ないものだ。
「所謂文学少女というやつが私は嫌いだ。卑屈なくせにどこか他人を見下して、自分にはなにかあるっていう幻想を本気で信じてる。自分は他人と決定的に隔てられていると思い込んでいる。煎じ詰めれば対人恐怖の正当化のくせに。読書は人を賢くするだなんて、妄想さ。紙とインクの束のくせに生意気な、あれはひたすら人を愚かにする」
「…本人の眼前でわざわざ悪口いわなくてもいいだろう」
しってるよそんなこと。私は不機嫌に呟き、椣原はわらった。
「主人公は結局ふつうの女の子になるみたいだよ」
「へえ、健全、そして賢明、つまりおもしろくない。小説のくせに」
興味なさそう。こいつは小説をなんだたとおもっているのだろうか。
私はどうにもうんざりとして本を閉じた。椣原は先日見たとかいう大昔の洋画の話をしはじめた。
そろそろ電車が来る頃だった。


(僕はかぐや姫)
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