文章諸々
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大手チェーン系列のファミリーレストランの巨大なガラス窓越しに見る夜の景色というやつはどうにも性急でいけない、と私は思った。空はごく平坦に黒々として、そのくせ信号機や電灯はいやに煌々とあかるく、道行く人の顔はやけにくっきりとしていて、逆に現実感というものが希薄だ。それは、大手チェーン系列のファミリーレストランが抱える立地上の宿命的な問題であるともいえなくもないわけだけれども、それとはまた別に、見えるシーンがまったく同じであったとしても、高級フレンチレストランだとか、高級イタリーレストランだとか、高級チャイニーズレストランだとか、つまり、頭にコウキュウだとかミツボシだとかいう枕詞が添付されているお店の窓ガラスからトリミングされた景色であれば何か、心象が違うのかもしれない。たとえば、都会の雑踏も趣深く目に映るのかもしれない。残念ながらそのようなお店には、月並みに言えば水と油の如く、縁がないわけだから実際に検証することは叶わない。なんていったって今私の財布の中には五以上切り上げでようやく野口一人分、といった量の硬貨しか入っていない。ここの勘定が彼女持ちでなかったとしたら、この実に空々しきファミリーレストランにだって行く余裕はないのであった。
「べつに、遠慮なんてしなくてもいいのに。給料日前って聞いたけれど?おなか空いているんでしょう?」
「遠慮なんてしていないわ、一食の総カロリーが200キロカロリーを超えると急性アレルギーでひきつけを起すらしいの、私」
彼女はなんともいえない顔して愛想笑いを口元に浮かべた。私はいつものごとくの仏頂面で小首をかしげてみせた。第一、私が、彼女の施しを素直に受けるような人間であったらならそもそも今私はおなかをすかせてなどいないのだ。
「で、何の用でしょう」
私の声はひどく冷淡だった。しかし彼女はいつものように、その優雅な微笑ひとつ崩さない。彼女が微笑むと彼女の目じりと口の端には細かい皺が寄った。その老化の象徴を世間の人たちはチャーミングだとか、愛らしいとかそういった形容詞で表現する。私は世間の人たちの正気を疑う。
「何の用、なんてひどいわ。もう三月もあっていないのよ、お父さんだって心配しているわ」
それはそれは。私は少しうんざりした。
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14時30分、出されたばかりのジンジャエールの発するぷちぷちとした気泡をみて、そもそも私は炭酸の類が一切飲めないことを思い出した。伝票をおいて颯爽と去り行くウェイトレスを尻目に私はほんの十数分前のオーダー時の記憶を検証し、幾ばくかの疑いもなくジンジャエールを注文した自分の正気を疑った。ついでに今現在の自分の正気も疑ってみた。ジンジャエールは残念ながらジンジャエールであり続けた。私は私が信じられない。私は私の正気の所在を疑っている、14時32分、残りの28分間私は私の暫定架空な正気を疑い続けるであろう。28分後には奴がくる。
カーソルが点滅する、摩耗した意識のもと、わたしはかろうじで認識した、残念ながらわたしはいきている。発声は台詞というよりも寧ろ呻き(或は吐息)であったが彼の耳はわたしの言語を識別した。
「きみがすきなんだ」
「それは病理さ」
刷り込みだよ、彼はそう続けて退屈そうに紫煙をはいた。
わたしはその勾配する薄煙りを目で追った、刷り込み、わたしの脳内に、ブリキの玩具についてまわる家鴨の雛、の図が再生された。病理、つまり。
「わたしは死ぬのだろうか」
彼は皮肉めいた歪みを口の端にうかべて、さあね、とうそぶいた。とびきり端正な彼の横顔にうかんだその表情にはわたしを殺してあまりあるある種の憂いが滲んでいた。
(或は、)(夕陽の橙による錯覚か)
「きみのことがすきなんだ」
まるで呪文のようだ。彼の細葉巻は灰皿の上で死ぬときをまつ、彼の細い指はそっとわたしの瞼を覆い、
「きみがすきなんだ」
「それは病理さ」
刷り込みだよ、彼はそう続けて退屈そうに紫煙をはいた。
わたしはその勾配する薄煙りを目で追った、刷り込み、わたしの脳内に、ブリキの玩具についてまわる家鴨の雛、の図が再生された。病理、つまり。
「わたしは死ぬのだろうか」
彼は皮肉めいた歪みを口の端にうかべて、さあね、とうそぶいた。とびきり端正な彼の横顔にうかんだその表情にはわたしを殺してあまりあるある種の憂いが滲んでいた。
(或は、)(夕陽の橙による錯覚か)
「きみのことがすきなんだ」
まるで呪文のようだ。彼の細葉巻は灰皿の上で死ぬときをまつ、彼の細い指はそっとわたしの瞼を覆い、
「ねえスズキ、」
「なんだよ何時にも増して辛気臭い顔して」
「一生のおねがいがあるんだ」
「昨日もきいたぞその台詞。お前の一生てのは24時間で終わるのか。蜻蛉か。ふざけるな」
「揚げ足をとるもんじゃあない。言葉のあやだよ、単なる強調構文だよつまり」
「結論からいうと、却下」
「せめて嘆願のなかみくらい聞いてくださいというか聞けよ」
「僕は忙しいんだ」
「忙しいひとはジャンプなんて読まない」
「訂正しよう、ジャンプを読むのに忙しい」
「なんだよ何時にも増して辛気臭い顔して」
「一生のおねがいがあるんだ」
「昨日もきいたぞその台詞。お前の一生てのは24時間で終わるのか。蜻蛉か。ふざけるな」
「揚げ足をとるもんじゃあない。言葉のあやだよ、単なる強調構文だよつまり」
「結論からいうと、却下」
「せめて嘆願のなかみくらい聞いてくださいというか聞けよ」
「僕は忙しいんだ」
「忙しいひとはジャンプなんて読まない」
「訂正しよう、ジャンプを読むのに忙しい」
前提:よのなかのあらゆることばは嘘である
「ちょっと本心をさらしてもいいときはカッコトジカッコを使いましょう(めんどくさいけど)」
「それいちばん曝しちゃだめな本心だろ」
「ちょっと本心をさらしてもいいときはカッコトジカッコを使いましょう(めんどくさいけど)」
「それいちばん曝しちゃだめな本心だろ」
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