文章諸々
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大手チェーン系列のファミリーレストランの巨大なガラス窓越しに見る夜の景色というやつはどうにも性急でいけない、と私は思った。空はごく平坦に黒々として、そのくせ信号機や電灯はいやに煌々とあかるく、道行く人の顔はやけにくっきりとしていて、逆に現実感というものが希薄だ。それは、大手チェーン系列のファミリーレストランが抱える立地上の宿命的な問題であるともいえなくもないわけだけれども、それとはまた別に、見えるシーンがまったく同じであったとしても、高級フレンチレストランだとか、高級イタリーレストランだとか、高級チャイニーズレストランだとか、つまり、頭にコウキュウだとかミツボシだとかいう枕詞が添付されているお店の窓ガラスからトリミングされた景色であれば何か、心象が違うのかもしれない。たとえば、都会の雑踏も趣深く目に映るのかもしれない。残念ながらそのようなお店には、月並みに言えば水と油の如く、縁がないわけだから実際に検証することは叶わない。なんていったって今私の財布の中には五以上切り上げでようやく野口一人分、といった量の硬貨しか入っていない。ここの勘定が彼女持ちでなかったとしたら、この実に空々しきファミリーレストランにだって行く余裕はないのであった。
「べつに、遠慮なんてしなくてもいいのに。給料日前って聞いたけれど?おなか空いているんでしょう?」
「遠慮なんてしていないわ、一食の総カロリーが200キロカロリーを超えると急性アレルギーでひきつけを起すらしいの、私」
彼女はなんともいえない顔して愛想笑いを口元に浮かべた。私はいつものごとくの仏頂面で小首をかしげてみせた。第一、私が、彼女の施しを素直に受けるような人間であったらならそもそも今私はおなかをすかせてなどいないのだ。
「で、何の用でしょう」
私の声はひどく冷淡だった。しかし彼女はいつものように、その優雅な微笑ひとつ崩さない。彼女が微笑むと彼女の目じりと口の端には細かい皺が寄った。その老化の象徴を世間の人たちはチャーミングだとか、愛らしいとかそういった形容詞で表現する。私は世間の人たちの正気を疑う。
「何の用、なんてひどいわ。もう三月もあっていないのよ、お父さんだって心配しているわ」
それはそれは。私は少しうんざりした。
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